【研究部門】『ベースボールと日本占領』

書籍表紙
受賞後、コメントを求められる谷川氏
  • 『ベースボールと日本占領』
    • 著者:谷川建司
    • 出版:京都大学学術出版会

京都大学学術出版会:ベースボールと日本占領 (kyoto-up.or.jp)

野球文化學會学会賞選考委員 池井 優 氏 推薦文

 アメリカは日本の占領を遂行するに当たり、「3S政策」=映画(Screen)、スポーツ(Sports),

セックス(Sex)を採ったといわれる。映画について、すでに著者は博士論文を著書にした『アメリカ映画と占領政策』(京都大学学術出版会)でその研究の成果を公にしているが、本書はその姉妹編としてアメリカは占領中、野球を対外文化外交政策としてどのように活用し、どの程度の効果を持ちえたのか、実証的に検証したものである。

 マッカーサーを頂点とする連合軍総司令部は本場アメリカのベースボールに触れる機会を日本人に与える方策をとった。それは武士道の延長としての剣道の弾圧となり、CIE映画を通じて、映画館などない地方でのアメリカの野球をはじめとするスポーツが紹介された。上映された一都三県における上映記録のきめ細かい分析がなされる。さらにVOAラジオ番組、雑誌、漫画を活用した実態が紹介される。アメリカ社会における人種差別打破の実例としてMLB黒人選手第一号ジャッキー・ロビンソンが取り上げられ、本人が出演した伝記映画「ジャッキー・ロビンソン物語」はさまざまな事情で日本では公開されなかったが、野球雑誌、漫画では積極的に活用された。同じ「ロビンソン漫画」の英語版と日本語版の内容を丁寧に比較することによってアメリカがなにを日本人に伝えたかったかを引き出す。

 1949年に実現したサンフランシスコ・シールズの来日は、日本における野球復興の総仕上げであった。戦前から日米野球に深くかかわっていたオドールが監督としてチームを率いてやってきたシールズは、親善を目的とするものであったが、ビジネス利用の側面もあった。コカ・コーラ、ペプシ・コーラ両社の広告料はかなりの収入が見込めたのである。

 占領政策の遂行に当たり、アメリカは“ベースボール”という共通言語によってコミュニケートすることができるということが再認識されたのではなかったかとの著者の指摘に同感である。

 小学校5年で終戦を迎え、戦時中「欲しがりません、勝つまでは」、「鬼畜米英」と軍国主義思想を叩きこまれながら、戦後「進駐軍の特別の配慮によって製造された軟式ボール」で三角ベースにのめり込み、名優ゲーリー・クーパーがゲーリッグに扮し、ベーブ・ルース本人も出演した映画「打撃王」を見てアメリカ人の勇気と家族愛に感動し、シールズ観戦ではじめてコーラを味わい、まさにアメリカのベースボールによる対外文化政策によって「見事に洗脳された」一員として、内外の資料と文献を参照して書き上げた本書によってその背景を知り、著者が収集した当時のポスター、パンフレット、雑誌の表紙に接することができたことを含め、野球文化學會学会賞(研究部門)授賞にふさわしい労作として推薦する。

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