【研究部門 奨励賞】根岸貴哉 氏

- 野球のメディア論 球場の外でつくられるリアリティー
- 著者:根岸貴哉 氏
- 出版:青弓社
野球文化學會 会長 鈴村裕輔 推薦文
根岸貴哉氏の著書『野球のメディア論 球場の外でつくられるリアリティー』(青弓社、2024年)は、同氏が2018年に立命館大学に提出した学位請求論文「野球視覚文化論」に基づき、加筆修正されたものである。根岸氏は同論文により、2019年3月に立命館大学より博士(学術)の学位を授与されている。
『野球のメディア論』は、観る対象としての野球が媒体の違いによってどのような特徴を備えているか、あるいは媒体同士がどのように影響を及ぼし合っているかを検討する一冊である。
本書が取り上げる媒体は雑誌、テレビ、野球を主題とするデジタルゲーム(野球ゲーム)、漫画である。さらに、テレビは試合を中継する際のカメラアングルとピッチングフォームに関する批評とに分けられる。
根岸氏は、これらの項目について視覚を手掛かりに分析し、野球と各種の媒体との結び付きの強さや時代の変遷や技術の進歩による変化を実証的に示している。
視覚に注目することで、根岸氏は雑誌の読者が選手の写真のどのような点に注目するかだけでなく、雑誌の作り手が読者の視覚をどのように意識して写真を撮影し、誌面を作るかという読者と製作者の相互の影響を明らかにしている。また、1970年代中期を境に野球中継時のカメラの位置がバックネット裏からセンターアングルへと移行した背景に視聴者の支持があったことや後の野球ゲームの画面作りにも影響を及ぼしたことを、当時の新聞記事やゲームソフトに基づいて示している。
これに加えて、投手の投球フォームについても、夏の甲子園の試合のNHKとBS朝日の中継映像をTwitter(現在のX)の投稿と比較することで「きれい」と「かっこいい」という評価の違いを実証的に明らかにしている。
これらの点はいずれも既存の研究や類書には見られない、根岸氏が開拓した新たな論点や議論である。しかも、根岸氏の研究は、既知の情報や公知の事実であっても、問題意識のいかん、あるいは論点の設定のあり方によって従来の研究が見過ごしてきた野球の魅力を説得的に示すことが可能であることを伝えている。
文化は人間の日々の営みに関わるあらゆる事象を含む。そして、本書の中でもしばしば言及されている「野球文化」が野球に関する全ての現象を含むことは、野球文化學會の設立に際し、創設者である諸岡達一氏が提唱した「ベースボーロジー宣言」で指摘されている通りである。
その意味で、様々な媒体をメディと捉え視覚を通した野球と観る者の関係とメディア同士の影響を検討した根岸氏の研究は、野球文化の領域と可能性を広げるものである。
以上より、根岸貴直氏を主としてその著作『野球のメディア論』の成果によって第6回野球文化學會研究部門奨励賞の受賞者として強く推薦するとともに、今後も野球文化の発展に貢献する研究を継続されることを期待するものである。