【研究部門】紀元2600年の満州リーグー帝国日本とプロ野球

  • 紀元2600年の満州リーグー帝国日本とプロ野球
    • 著者:坂本邦夫
    • 出版:岩波書店

野球文化學會委員・池井優氏 推薦文

1940年(昭和15年)は神武天皇即位から数え2600年に当たり、日本は国威発揚、国内外への宣伝を兼ねてさまざまなイベントを企画した。目玉は東京でオリンピックを開催することであったが、日中戦争の勃発と国際世論の厳しさと戦争 の長期化に伴う資金と資材の不足により、一旦決定しながら返上せざるを得なかった。小さな記念イベントは数え切れないほどおこなわれたが、その一つが、日本のプロ野球チーム9球団が満州に渡り、各地で試合を行う「満州リーグ」の開催であった。 「満州リーグ」は日本野球史上に画期的な何かを残したイベントではない。著者は 早稲田の野球部が明治38年に渡米した際連日登板し「アイアン・コーノ」(鉄腕河野)といわれ、そのご日本プロ野球の創設にかかわった河野安通志を調べているうちに、河野が団長として日本プロ野球全9球団を率いて1940年7月から8月にかけて満州に渡り40試合をおこなった「満州リーグ」に関心を持ち、調べ抜いた結果が本書である。

紀元2600年の記念事業として日本野球連盟はさまざまな企画を検討したが、 満州日日新聞社からの誘いは魅力的であった。六大学野球に比べ人気の面で劣るプ ロ野球の新市場への期待、また在満日本人への何よりの娯楽提供にもなる。こうして9球団の選手監督に一行203名は大連、奉天など各地で72試合をおこなった。 雨、南京虫、飛ばないお粗末なボールに悩まされての遠征であった。

地味なテーマだけに出版の当てもないまま文献調査を開始したのが、2002年。 翌年から関係者へのインタビューをおこなっていった。当時「満州リーグ」を知る人々はすでに80歳を超え、本書が刊行された2020年には多くの方が鬼籍に入 られた。国策と戦争に翻弄される日本プロ野球、そこで展開された「満州リーグ」 を追った力作が伝統ある出版社から刊行されたことを含めて、學會賞に強く推薦する次第である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA